君と計る距離のその先は…
私の動揺は置き去りに橘さんは話し始めた。
「コミニュケーションスキルが欠けてる者同士、分かり合えると思ったのかな。」
その言葉には驚きがあって、それをそのまま口にする。
「欠けてるって、私は確かにそうですけど。
橘さんは営業ですし、そんなわけ…。」
「そうじゃなきゃもっとスマートに誘えてる。
最初のも今朝のも俺なりに反省してる。」
目を伏せてビールに視線を落とす彼は大柄で威圧感が半端ない橘さんに思えないくらい小さく見えた。
小さな男の子が悪いことをして反省しているみたいで、大丈夫だよって抱きしめてあげたくなる。
ハハハッと軽い笑いを吐いた橘さんに、フッと現実へ行き戻された。
目の前には小さな少年ではなく、ガタイのいい青年がいた。
ただ、数日前の苦手な強面なイメージからはかけ離れた悪戯っぽい笑みを浮かべてはいる。
やっぱり彼は大きな少年?
「俺しか覚えてないとか凹むわ。」
「え?」
「俺にいちごの飴くれたろ。
仕事で廃人になってた時に。」
「え、廃人?え?」
慌てる私に橘さんは苦笑する。
私、橘さんを苦笑させてばかりだ。