君と計る距離のその先は…
次の日、ドギマギしながら出社したのに橘さんはキスしておいて至って普通だった。
つまりそんなに親しくもない私達は挨拶を交わす程度で視線さえも絡むことはなかった。
酔ってたみたいだし覚えてないのかもしれない。
それなら忘れててくれた方が助かる。
トイレの順番待ちの列に私達以外、同じ会社の人が並んでいなかったのは何よりの救いだ。
並んでいた人も私の平手打ちには若干の驚きはあったようだけど、みんながみんな酔っているような場所。
痴話喧嘩とでも思われたようで特に何も言われなかった。
あれ?これって私の方が夢見てましたってオチだったりして?
「真野さん。仕事頼める?」
「あ、はい。すぐにでも!」
呼ばれた私は慌てて仕事の準備に取り掛かった。
私は大手デパートの裏方である事務所で働いている。
橘さんは何人かいる一緒に仕事をする人の中の一人。
一般事務の私達と営業の男性社員。
営業が持ち帰った仕事で、細々した仕事を私達が引き受ける。
「急ぎが入ったんだけど。誰か出来る?」
「簡単な入力作業。
いつでもいいから忘れずにやって。」
こんな具合にみんなそれぞれが頼んで行く。