君と計る距離のその先は…
それは、今までの彼女にってことだよね。
どうしてかショックに感じて、無言で橘さんを見上げた。
笑みの消えた私に目を丸くした橘さんは真っ直ぐに私を射抜いてポツリと言った。
「もしかして……妬いた?」
電車がホームを通過する音も、けたたましく鳴るベルの音も、車掌さんのアナウンスも。
何もかもの音が聞こえなくなった錯覚に陥って、無音の中で橘さんに見つめられた。
微かに震える手が伸びて頬に触れそうになったところで手はギュッと握り戻されて、音がうわっと戻った気がした。
「悪い。触れそうになった。」
よく分からない頷きを返して、無言でホームの方へ向き直った。
並んで立つ橘さんの手と手。
触れそうで触れない距離がもどかしくて、どうしてか寂しかった。