君と計る距離のその先は…
「さっきの。」
「え?」
アパートに着いて唐突に橘さんが口を開いた。
「うぬぼれて妬いてくれたって思ったから言うんだけど。」
頷いていいのか分からなくて困っていると橘さんは構わず続けた。
「自分から好きになってアプローチするのは真野だけだ。
そんな奴、真野が初めてだ。」
「……自慢、ですか?」
「違っ。そうじゃなくて……。
俺、中身はガキだから、そういうのに疎くて。
好意を向けられれば、そりゃ嬉しいだろ?
それにそういうことに興味が無かったわけじゃないし……。」
私は思わず橘さんのお腹にパンチした。
「え……」と、状況が理解できていない声が聞こえて、私のパンチなんて効いていない感じがますますムカついた。
「別に気にしてなんていません。
ただ、橘さんが私と同じ人種かと思ってたのを裏切られた感じがして寂しかっただけです。」
「同じ人種って……。」
呟く橘さんを置き去りにして、私はアパートの階段を駆け上がった。
「電話!」
私の背中に呼びかける声を振り切るように私は止まらずに走った。
「明日も朝、電話するから!」