君と計る距離のその先は…

 急に携帯が騒がしくなって橘さんから電話が掛かってきた。

 怒らせたかもしれない。
 呆れられたかもしれない。

 電話に出るのが怖い。

 出ないままでいると留守電に自動的に切り替わった。
 留守電に入る時のくぐもった声が微かに聞こえる。

「真野。聞いてる?
 呆れられようと何度でも言うぞ。
 俺は真野が好きだ。
 残念だったな。
 当分、嫌いになれそうにない。」

 トクントクンと温かいものが胸に降り積もっていく。
 それは粉雪のようなのに溶けてなくなってくれない。

 電話が切れたことを確認して留守電を再生させた。

「………真野が好きだ。」

 そのフレーズを聞くだけで涙が出て、頬を涙が伝う。
 怒った声でも呆れた声でもない。

 ただただ、私への愛の言葉。

 私は神に懺悔するように心に質問を浮かべた。

 彼の深い愛に、もう少しだけ触れていてもいいですか?

 橘さんへ猶予となった一ヶ月。
 私もその猶予だけ。
 もう少しだけ、その間だけだから。
 彼の好意に甘えていたい。

 私は涙で滲む視界の中でメールを打った。

『ありがとうございます。』

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