君と計る距離のその先は…

「健太さんと話してるのが……。」

「ちょっと待て。
 どうして俺は『橘さん』で、健太は『健太さん』なんだ。」

「え……。名字を知らないので。」

「葛木だ。」

 ぶっきらぼうにそう言われて面食らった。

 橘さん変だ。
 ううん。変というよりも。
 アプローチする前の橘さんに戻っている。

 ニコリともせず、必要最小限の会話のみで人を寄せ付けないオーラ。
 仕事に厳しくて、私の苦手な橘さん。

「橘さん、どうかされました?」

「何が。」

 ため息混じりに返されて「……何も」と返すことしか出来なかった。
 急に橘さんと2人でいる資料室に息苦しさを感じた。


「助かったよ。」

 必要な資料は揃ったようだ。
 私は早くこの場から逃げ去りたかった。

 なんとなく距離を取って離れて歩く。
 きっと自分だけが感じている違和感。
 苦手意識がなくなったと思っていたのも幻想だった気さえする。

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