君と計る距離のその先は…
資料室の扉に向かっていて、もうこの息苦しい時間からも解放される。
そう思った時だった。
急にフッと電気が消えて辺りが真っ暗になった。
「停電?」
橘さんの怪訝な声が聞こえて、近づいてくる気配を感じる。
「嫌…来ないで。」
「……え。」
時間は定時間際。
そろそろ薬が切れる頃だ。
あと少しだから平気だと思っていたのに。
体は勝手にカタカタと震え始め、尋常じゃない量の汗が体から噴き出してくる。
資料室に来る前のみんなの非難するような視線。
橘さんの冷たい態度。
何もかもが今はマイナスな方向に作用して冷静な判断が出来ない。
自分の心の闇のような暗さに、橘さんを拒絶していた。
橘さんがどう思ったのかは分からない。
そんなことに気を回す気力も残っていなかった。
そこからどれだけ経ったのか。
それさえも分からない。
消えた時と同じようにフッと電気がついた。
まぶしい光に目が眩んで、そこから徐々に目が慣れてくると心配そうにこちらを見ている橘さんが視界に入った。
「嫌ッ。ヤダ。怖い。」
1歩、歩き出そうとした橘さんにびくりと体をわななかせると橘さんは踵を返して無言で資料室を出て行った。