君と計る距離のその先は…
人と話すと体が震えるようになり、汗が出るようになったこと。
そうなると余計に人が怖くなり、見られるだけでもダメになったこと。
一番ひどい時は人の気配だけで怖くなっていたこと。
「今は薬を飲んでいるので、ずいぶんコントロール出来るようになりました。
けれど、薬が切れるとあのザマです。」
黙って聞いていた橘さんが「ごめん。怖がらせて」と絞り出すように言った。
「違います。
橘さんのせいじゃないんです。」
橘さんはかぶりを振った。
「いや、俺のせいだ。俺のせい……。
ごめん。」
そう言った橘さんは立ち上がった。
隣にあった離れていく微かな温もり。
手を伸ばしてつかみたい気持ちは「あの…」と消えかけた声に変わった。
「心配しなくても誰にも言わない。
言いづらいこと、話してくれてありがとな。」
それだけ言うと橘さんはコーヒーショップを出て行った。
これでいいんだ。これで。
こんな私だから、いくら橘さんがアプローチしてくれたって、その想いに応えることは出来ない。
何かを失ったような喪失感はいつもより強い薬を飲んだ反動なのか、それとも別の何かなのか。
勝手に流れていく涙をただただ俯いて人目につかないようにすることが精一杯だった。