君と計る距離のその先は…

「念の為、最初にお伝えしています。」

 私は診療方針か何かを言われるのだと思っていた。
 如月先生が続けたのは、少し違う内容だった。

「心療内科という性質上、親身になって関わる為に勘違いされることが多くあります。
 しかし、私は患者さんに恋心を抱くことはありません。
 患者さんがもしも私に恋心に似た感情を持たれても応えることはありません。」

 これほど美しい医師なら患者さんに好かれそうだとその時はどこか他人事のように聞いていた。
 如月先生は穏やかに説明してくれて、それは後々の私にはとても大切なことだった。

「それは治療していく上での信頼関係を恋心と勘違いしているだけです。
 私は患者さんとそんな一時の恋心よりも深い信頼関係を築いていきたいと思っています。」

 言われた時は初診で女医さんを希望していたくらいだし、病院を変えるつもりだったくらいだ。
 私には関係ないことだと思っていた。

 男性でも穏やかで良さそうな医師だということと何より心が疲れていて、また新たな病院に行く気力も残っていなかっただけ。

 最初は惰性で通い始めた病院。
 まさか自分がその通りになるとは思っていなかった。

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