君と計る距離のその先は…
「どんなお礼ですか。それ。
ヤダ……どうして涙が…。」
どうしたのか、俺の前で彼女は突然ハラハラと泣き出した。
女の涙なんて面倒だって思っていたのに、何故だか今はとても高等なもののような気さえして触れたい衝動に駆られた。
その気持ちを誤魔化すように憎まれ口をたたく。
「泣き虫。」
「違っ。これは先輩が不意打ちで優しい言葉をかけるから。」
「命の恩人って言葉が?
優し……かったか?」
優しいなんて俺から一番縁遠い言葉で……。
「あれ、そうでもないですね。」
きょとんとした涙に濡れた間抜け面と、その前の綺麗な涙に今思えば俺は落ちていたんだと思う。
「ハッ。なんだよ。それ。」
「フッフフフッ。」
顔を見合わせて笑い合っただけで心が解けていくようだった。
そこから俺はこの話しかけてくれた女性を意識するようになった。
それが真野だった。