君と計る距離のその先は…

 けれど宮崎さんは首を横に振った。
 眉尻を下げ、橘さんの体を気遣うように続けた。

「いや。今は自分を追い込んでいる最中。
 悩みが浮かばないくらい寝ないでいるつもりなんだろ。
 それで倒れるように眠るというよりも落ちるというのを繰り返してるみたいだ。」

「それは……言われた私にどうしろって言うんですか?」

 資料室で橘さん本人に「無理してるんじゃないですか?」と聞いた時、指摘されたくないみたいだった。
 それなのに、他にどうしていいのか分からない。

 それともモーニングコールをやめた今、今度はおやすみコールでもしろと言うの?

 宮崎さんはおやすみコールをしろ、なんていう無茶振りはしなかったけれど、具体的にも何も言わなかった。

 ただ、宮崎さんはどこか遠くを見るような瞳をして橘さんを思いやるように言った。

「あいつ馬鹿だから。
 真野さんへの真っ直ぐ過ぎる気持ちは信じてやって。」

 何度目かの『信じてやって』に困っていると、私達の元へ「お連れ様が来られました」と声が掛けられた。
 私には縁のない趣のある座敷は不意打ちで突然襖が開かれたりしないみたいだ。

 告げられたことで緊張感が一層増した私に頷いてみせた宮崎さんが「はい」と返事をした。

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