君と計る距離のその先は…
2.強引な彼は
「真野さん。
前年度の資料を参考にしたいから他社のパンフとかを資料室から持ってきてくれないかな。」
「はい。」
前年度の資料かぁ。
重いかなぁ。台車が必要かもね。
そんなことを思いながらエレベーターに乗り込むと閉まりかけているドアに人が滑り込んできた。
「あ、危ないです。あっ。」
「大丈夫だ。お疲れ。」
「お疲れ、さまです。」
乗り込んで来たのは橘さんだった。
今、一番会いたくない人。
「重いだろ。手伝う。」
「ありがとうございます…。」
動揺して震えそうな手で行き先の階を押した。
何も橘さんが手伝ってくれることないのに。
エレベーターも資料室でも二人きりだと思うと胃がキリキリと痛んだ。
不意に自分の影にもう一つの影が重なって、背中に重みを感じた。
覆い被さるように抱きすくめられて声が上擦る。
「な、なんですか。
また前みたいなことしたら人を呼びますよ?」
「前みたい?」
橘さんが発したと思えないほど甘美な声が耳元に囁かれてゾクリとした。