君と計る距離のその先は…

「分かったら帰ってくれない?」

「橘さんのあまのじゃく。」

「は?何、言って……。」

「本当に私のことが好きなら一緒にいたいって思うものでしょ?」

「じ、自分で言うのかよ。」

「だって上川さんが女は強気でなんぼって。」

「上川って……。
 お前ら俺を虐めて楽しい?」

「虐めてるつもりはありません。」

 橘さん相手にこんな口を利くなんて。
 宮崎さんと上川さんから任された任務があったからこそだと思う。
 だって。それは重大任務だから。

「私、料理を作りに来ました。
 それでもう遅いですし、金曜ですし、お泊まりします。」

「は?」

「キッチン借りますね。」

 彼の横をすり抜けて勝手に上がった。

「料理されないんですね。
 良かった。包丁とお鍋はある。」

 スッキリと片付いた部屋は想像……というより教えてもらった通りだった。

 今、こんなタイミングで前の飲み会のことを急に思い出した。
 橘さんと宮崎さんなら、どっち?と言われた時のこと。

 その時に自分が宮崎さんを選んだ理由が分かった気がした。
 宮崎さんは如月先生に似ている。

 宮崎さんは周到に用意された正解を私に伝えた。
 私の正解かどうかは関係ない、宮崎さんの正解。

 決められた言葉と行動は認知行動療法みたいだ。
 決められた行動は不安を排除してくれて普通を装える。

 例え、それが私の正解かどうかは分からないとしても。

 そう。部屋に上がるまでの一連の流れは宮崎さんに言われた内容。
 こんな風に言って当たり前のように部屋に上がれば大丈夫。そう言われた。

 橘さんはといえば、自分の家なのに未だに居心地が悪そうな顔をしている。

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