その笑顔、私のモノ
顔に当たる生ぬるい風と、漣の指が優しく私の頭に触れているのは、少し心地よかった。
1人では時間がかかるのに、漣がやるとあっという間に乾いてしまう。
それも…湿りの無い、サラサラな髪になる。
「はい。彩子ちゃん!終わったよ〜。」
悔しいけど、自分じゃここまで完璧に乾かせない。
漣は、ドライヤーのスイッチを切ってテーブルに置くと、私を後ろからギュッと抱きしめてきた。
「ねぇ、彩子ちゃん?
今日変じゃない?何かあったの?」
漣は私の変化にすぐ気がつく。
他の人から見たら、普段通りに過ごしている様に見えると思う。バレないようにしていたし…
だけど、漣には分かってしまったみたい。
実は有坂さんと漣が話した後から、漣の顔を見ないようにしていた。
心のモヤモヤが出てきそうだったから、抑えるために…
漣は1度回していた手を離して、座っている私の前に来て、しゃがみこむ。
「彩子ちゃん?」
少し不安そうな…でも、心配そうな顔をした漣に覗き込まれる。
「漣が…
漣が悪い!ずっとモヤモヤしてたの!
気が付かない振りしてたのに…
私は有坂さんみたいに可愛くないし、ぶりっ子も出来ない。
それに胸だって大きくない。
みんなの前で漣に抱きついたりも出来ない…!」
1度口に出すと、ポロポロとしまい込んでいた想いが口から出てきた。
マシンガントークのように、一方的に言った私の言葉を、漣はポカンとしながら聞いていた。
私が言い終わって、一瞬、沈黙の時間がある。