その笑顔、私のモノ



「始まっちゃうから、中に入ろうか!」


と、漣はウキウキした様子で言う。
私の持っていた、飲み物とポップコーンが入った籠を、漣がサッと私の手から取って、反対の手で私の手掴んだ。

ゲートにいる店員さんにチケットを見せて、その場を通る。
チケットに書いてあるのは、3番スクリーンだ。

案内板を頼りに進んで、見つけた部屋に入った。
そして、目の前に広がる光景に、びっくりする。
想像していた以上にすごい。

なんと、この映画館は見る時椅子に座るのではなく、ベッドが置いてあるのだ。
だから、家で見ているようにゆっくり出来る。
ただ、家より何倍も大きな画面で見れる。
それに、半個室状態なので、周りの目を気にする事はない。
それが、人気で予約半年待ちの理由だ。


「僕達はあそこだね〜」


そう言って、漣が指さしたのは1番上の右側だった。
既に何組かいたけれど、カップルが多く、みんな自分達の世界に入っている。
特に気にする様子もなく、漣がスタスタと進むので、私もあとに続く。

靴を脱いで、ベッドの上に上がってみると、すごくふかふかしていた。


「彩子ちゃん、おいで?」


漣が優しい顔で、大きな枕を背もたれにして腰掛けながら私を近くに呼ぶ。
このまま離れて座るのも不自然だし、漣が拗ねそうなので素直に近づいてみる。
1歩寄ると、ぐいっと引き寄せられて、肩を抱かれる格好のまま、私も寄りかかった。

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