その笑顔、私のモノ


やっぱり、歯切れの悪い返事だ。
隠すってことは、私が見た通り有坂さんからの電話で間違いなさそうだ。
私の知らない人なら、普通に教えてくれると思う。


「さ、さあ、映画始まるよ~、彩子ちゃん!」


良いような悪いようなタイミングで、映画が始まった。
ごまかされた…

見たかったはずの映画だし、久しぶりのデートで楽しみなはずなのに、頭に残っているのはさっきの電話のこと。

映画を見ながらチラッと横にいる漣を盗み見る。
真剣な顔で画面を見つめていた。
今考えていても、何も変わらないので私も画面に集中しようと向き直る。

ひたすら画面を見つめてはいたけど、結局最後のエンディングが流れても、内容が頭に入ってくることはなかった。
映画館を出ると、外は既に薄暗くなっていた。


「彩子ちゃん!面白かったね!」


漣が興奮したように言ってくる。


「あ、うん…」


正直、内容なんて一切入ってこなかった。
さっきのことで、頭の中はいっぱいだ。
なのに…映画を見終わって、マナーモードを解除した漣のケータイがまた音を立てた。


「ごめん…、出ていい?」


ダメって言う理由もなく頷くと、今度は無視せず、直ぐに出た。


「もしもし?」

(あ、すいません〜。今平気ですかぁ?)


漣は電話に出ながら、私から少し離れる。
だけど、音が漏れて聞こえてきた声には聞き覚えがあった。
有坂さんの声だ。

もう、離れてしまったから声は聞こえない。
話している漣の様子を見ると、普段の仕事では見せない、私にしか見せないような笑顔で話していた。

やっぱり、有坂さんのこと好きなのかな…

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