その笑顔、私のモノ


お腹もいっぱいになってきた頃。
胸の内に溜め込んでいたものが、ポロポロと言葉にして出てきた。

「漣のばか…」

遥人に言うというより、愚痴をこぼす独り言のように今日あったこと、私の思ったことを全て吐き出した。
酔いも回って、自分でなんて言っているのかすら分からなくなってくる。
だけど、そんな私の言葉を遥人は何も言わずに聞いてくれた。


「漣なんて、もうきらい!!」


そう言いながらも、泣きそうになるのをグッと我慢して話を続けた。


「漣なんて…あんなに私のこと好きだったくせに…

あのぶりっ子の所に行くなんて、趣味悪いから!
もう、知らないもん。
勝手にすればいい…」


そこまで言って、またグイッとグラスを空にする。

飲みすぎたのもあったのか、話の途中でトイレに行く。
1人になると、思い出してまた涙が出てきた。
涙を拭って我慢したまま、そっとトイレを出て席に戻る。


「彩子?
…こんなに泣かせるなんて、そいつ…」


遥人の顔を見た途端、堪えていた涙がこぼれ落ちる。
遥人はなんか言っていたけど、上手く聞き取れなかった。
そのあとも、泣きながら何杯目か分からないお酒を飲む。
そして…


「好きだよ…ばか…」


自然と、口からポロッと言葉が漏れた。

そして、気がついた時には遥人の膝の上に頭を乗せて寝ていた。


「ん…はる…?」


目を擦りながら目を開けてみると、ぼやけていた視界がクリアになってくる。

そして、ここでは聞こえるはずのない、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



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