その笑顔、私のモノ


「あ、彩子ちゃん…起きた?」


開かない目を擦りながら、ぼやけた目を開けた。


「まあ、とりあえず、彩子を泣かすなら俺が貰うから。」


まだ、頭が回っていないのに、そんな声が聞こえてきた。
ん?…聞き間違い…?
この声は遥人の声だ。
遥人は幼なじみだし…
あれ?

頭の中がぐちゃぐちゃしてる時に、もう1つの声が聞こえた。


「はぁ?ふざけんな。彩子ちゃんは僕のだし!
お前になんか、渡すわけないだろ!
とにかく、さっさと彩子ちゃん離せ!」


喧嘩越しのその声には、ものすごく聞き覚えのある声だ。
でも、こんな言葉使いじゃないはず…
呼び方とか、ちょっと弱そうに聞こえる所は当てはまってるんだけど…

しだいに、ぼんやりしていた目も、見えるようになってくる。
聞こえてくる声が、想像している人であって欲しいような…ないような…
違ったら、寂しい気持ちもあるし、そうであっても気まずい…

だけど、見えてきたその人は、私が想像していたその人だった。


「れん…」


まだお酒が回っていて、呂律の回らない言葉が出る。
じーっと漣を見つめる。


「彩子ちゃん?帰ろ?」


さっきまでの、怒ったような口調では無く、優しく言った。
でも、こんな気持ちのまま、帰りたくない。


< 29 / 59 >

この作品をシェア

pagetop