その笑顔、私のモノ
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梓の家に行ってから、一緒にご飯を食べて、おしゃべりして…普通に過ごした。
漣のことを考えないようにしていた…。
だけど…
「ねぇ、彩子…あんた無理してるでしょ。
山本さんのことを考えようにしてるんだろうけど、空回りしてる。
私の前で、そんなに無理しなくていいよ。」
悲しそうな、でもなんて言ったらいいのか分からない、と言うような表情で梓は言った。
…見破られてしまった。
私だって、わかっていた…。
いつも通り…明るく、何事もなかったかのように演じていただけ。
それが空回りしていることも…。
それまで、顔に張り付けていた笑顔が少しずつ溶けていく。
「それに、連絡来てないか気になってるでしょ?
電源落としたはずなのに、彩子ちらちらケータイ見てたでしょ。」
梓に言われて、ハッとなる。
そう言われてみると、話しているときも気になって見ていたかもしれない。
だけど、無意識だったので、言われるまではそんなに見ているつもりはなかった。
「ごめん…気にしないようにしていたんだけど…。」
そう思っていても、私の心はついていかなかったみたい。
「返事…気になるなら見たら?
いつまでもそんなんだったら、まだ日数あるのに彩子がもたないよ?」
梓は、いつまでもウジウジしていた私にあきれたように言う。
でも、確かに梓の言う通りだ。
ずっとこんな無理した感じで過ごしていても、仕事も失敗するだけ…
それに、今の少しの間だけでも心が折れそうだったのに、まだ続くとなると確かに持たないだろう。