ずっと前から好きだから
「あたしじゃないよ。詩音さ「なっちゃん！なんでその名前知ってるの！？」



詩音さんの名前を口にしようとしたあたしの口を柊くんが手で覆う。



「.......え？」



柊くんがどうしてこんなに焦ったような表情になっているのかがまったく分からない。



「ご、めん。取り乱した」


「柊くんも詩音さんのこと知ってるの.......？」


「知ってるよ。すごく.......」



そう話す柊くんは、どこか寂しそうな顔をしていて。
これ以上、柊くんから何かをきこうなんだなんて思えなかった。



「あ.......」



ポケットに入れていたスマホから震えている。
手に取ると、匠の名前が表示されている。



「心配、してんじゃないの？面倒くせーよ？あいつ」


「う、うん。そーだね。電話に出て帰るよ」



すっかり元通りに戻った柊くんだけど、あたしの心は平常を取り戻せないまま匠からの電話にでる。



『おい、お前どこほっつき歩いてんだ！』



柊くんの言ったように面倒くさそうなタイプの匠が電話の向こうで怒鳴っている。


< 109 / 192 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop