ずっと前から好きだから
「すごい、球はやくなってるね」



まだ誰もいない放課後のグラウンド。
壁あてをしてる匠の姿をあたしは横でみている。



「あたりめーだろ。あんな小二の頃の球と一緒にすんじゃねぇよ」



軽々しく投げるのに、スピードはすごい出ている。




「でも、あたしはあの頃の2人しか知らないから……」


「夏実?」



なぜだろう。
さっきまで見れていた匠の球を直視することができなくて、目を逸らしてしまう。



「ごめん、帰ろうかな」


「お、おい。どうした?」



壁あてをやめて、慌てたようにあたしの前に回り込む。



「なんかあたし変なの」


「変?」


「匠も柊くんも。あたしの知らない7年間があって当たり前なのに、あの頃はあたしが1番よく知ってたのにって思っちゃう」



本当なら、あたしがそばでみたかった。
匠の球がどんどん速くなっていく瞬間も一緒にみたかった。

でも、それがかなわなかったのはもちろん仕方ないことだってわかってる。



「お前なー、俺らだってお前に一番見て欲しかったのは一緒だぞ?」



あたしの手にボールを握らせる。

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