ずっと前から好きだから
「ずるい.......ずるいよ、匠」


「ずるい?」


「そんなふうに言われたら、無視するなんてできないよ.......」


「無視なんてすんなよ。俺はお前に無視されるのが1番こたえんだから」



詩音の目からぽろっと一粒の涙が流れる。



「なぁ、お前の気持ちは?」


「.......好き」


「え?」



正直、詩音からの「好き」が貰えるとは思ってなくて。
「気持ちは?」なんて、聞いたけど振られるのを実際は覚悟していた。



「もう、言わない!」


「ごめん、もう1回聞かせて?」



逃げようとする詩音を後ろからぎゅっと抱きしめる。



「好き、匠が好き」


「やべぇ、めっちゃ嬉しい」



ずっと待ち焦がれていた、この言葉。
小さい頃は、兄貴に向けられてて。
夏実になったと思ったら、柊に向けられていた。

きっと、一生、コイツの気持ちが俺に向くことなんてないと思っていたから。



「あのね、匠」



ぎゅっと、詩音のことを抱きしめていたら、ふと俺の名前を口にする。



「ん?」

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