ずっと前から好きだから
いつの間にか、道具を出し終えていた柊くんはしゃがんで匠に向かってミットを構える。



「お、おう」



引きつった笑いをうかべながら、ボールをあたしの手からとって行った。



「おもいっきりなげろよ。1年から俺らでバッテリー組むのが目標なんだからな」


「たりめーよ」



さっきの壁あてなんか比じゃないほどのスピードで、柊くんのミットめがけてボールを放つ。



「おー、いいね」



そのボールをしっかりとミットで受けた柊くんは、満足そうに微笑む。

この顔、あたしはすごく知ってるのに。
柊くんは、あたしの顔をみても「なっちゃん」とは呼んでくれなかった。

「匠のクラスの女の子」として、認識されていた。
その認識はまちがってないし、あたしはたしかに匠のクラスの女の子だ。

でも、あたしはすごい幼い頃から柊くんのことを知ってるし、柊くんもしってるはずなのに。

ただの匠のクラスの女の子なわけはないのに。

さっき、匠に言われて暖まった心なんて、すぐに冷たくなってしまう。
柊くんの言葉は簡単にあたしを一喜一憂させる。

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