ずっと前から好きだから
「なんとなくぼーっとしてた。ほら、かわかすよ」



気をとりなおして、匠にドライヤーを見せる。



「げ、俺あんまり乾かさねーんだよな」


「ダメだって。いくら、髪の毛短いとはいえ……」



コンセントにさして、温風が出るドライヤーを無理やり匠の頭部にむける。



「はぁ、夏実にはかなわねぇな」



ため息をついて、渋々といった感じで、ドライヤーに近づく。



「まったく、ちゃんと毎日乾かないと……」


「母さんかよ」



ドライヤーの風を当てるあたしをみて、ケラケラと笑う。



「うるさいなぁ。ほら、ちゃんと前向いて」


「へいへい」


「ていうか、屈んでよ」


「そっか、夏実チビだもんな」



あたしの言葉に、ドライヤーが当てやすいように体を屈める匠。



「匠が高すぎるんでしょ」



あたしと匠は、昔は確かに同じくらいの背だったはずだ。
でも、小学校に入学してから背がどんどん伸びていった匠と、緩やかな伸びになったあたし。

いまじゃ、背伸びしても匠の背には追いつかない。

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