ずっと前から好きだから
匠の唇って、案外冷たいんだなとか。
そんなことばかり、考えてしまう。

見あげれば、匠の唇があって、この唇とさっき……って考えてしまう。



「俺は、夏実の初めてが貰えて嬉しいけど」


「え?」


「初めての恋は、柊に取られたからな」



満足気に笑う匠。



「とられたって……取るとか取らないとかじゃないでしょ」


「いいんだよ。自分の大事なおもちゃを取られたような気分なんだから」


「なにそれ、あたしは匠のおもちゃじゃないよ」



相変わらずの言い方にはぁっとため息が出る。



「おもちゃだよ。夏実は俺のおもちゃ」


「……っ、なによ「だから、もっとこっちにこいよ。俺のこともっともっと意識しろよ」



グイッて腕を引っ張られて、匠の顔が真ん前にくる。



「……なっ……んっ」



また、重ねられた唇。



「今度はノーカンじゃない、ほんとのキス」


「……っ」



ドキドキが止まらなくて、心臓がどうにかなってしまいそうだった。



「バカ!」



匠のことを突き飛ばして、あたし走り出した。
「おい、夏実!」と匠が呼んでいるのなんて、無視して。

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