ずっと前から好きだから
「俺のことなら気にすんな。柊のやつ、脈がないと思ってて不憫で言っただけで、俺はなんも気にしてねーから」


「そっか」



ちゃんと笑えているだろうか。
自分のこと、好きじゃなかったと聞かされて。
あたしはちゃんと匠に笑えているだろうか。



「昨日から色々考えて疲れたから、もう寝るね。ご飯チンして食べてよ」


「夏実?」



部屋に向かおうとするあたしの腕を匠が引っ張る。



「どうしたの?匠」


「いや、なんか様子おかしいなって思って」


「柊くんに告白されるなんて思ってなくて、考えすぎて疲れただけだよ」



嘘じゃない。
柊くんがあたしのことを好きと言うなんて、ありえないことだと思っていたから。



「でも」



あたしの様子がおかしい事に気がついているのか、匠は引き下がろうとはしない。



「ごめん。もう寝てもいいかな」



匠の手を少し強引に引き剥がして、あたしはそのまま自分の部屋へと入る。



「.......バカ」



あたしの様子には気がつくくせに、気持ちにはまったく気づいてくれない。

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