100日間、あふれるほどの「好き」を教えてくれたきみへ
「ねえ、ちょっとここにきて」
俺は海月を手招きした。
「二重奏、手伝ってよ」
そう提案すると、海月が首を横に振る。
「私、ピアノできない」
「平気。人差し指だけで一音弾いてくれればいいから」
というか、俺がもっと傍に来てほしいだけ。
海月は迷っていた。けっこうかなり、悩んでた。でも俺の射るような視線に渋々といった様子で重い腰をあげる。
「……本当に弾いたことないよ」
「大丈夫だから、ここに座って」
俺は身体を左側に寄せて、海月はスペースの空いた右側に座った。
「音楽の教科書にも載ってる曲だから知ってると思う。海月はそこの鍵盤だけ弾いて」
「どうやって」
「こうやって」
一拍の頭の位置を教えるように弾いてみせると、海月は「わかった」と、指を鍵盤に乗せた。
俺の合図ではじまる海月との二重奏。第三音楽室に穏やかなメロディが流れて、とても心地いい。
きっとこの心地よさは海月が隣にいるから。
なのに、どうして。
〝だってあの子が順番待ちしてる待ち合い室は脳神経外科だもん〟
こんな時に思い出す。