100日間、あふれるほどの「好き」を教えてくれたきみへ
「海月、今日は夕方からバイトだっけ?」
「うん。佐原は?」
「俺は休み。やっぱりシフト合わせないとなかなかお互いに休みの日ってないよな」
実は佐原も先月の末からバイトを始めていた。
そんなこと一言も言ってなかったし素振りも感じなかったけど、私が知らない間に面接を受けて今は物流センターの荷物の仕分けをしている。
沢木くんという友達の紹介らしいけれど、けっこうな重労働なんだとか。働いてる人は全員男の人らしいし、この前も飲料水が入った段ボールを永遠に上げ下げして、腰を痛めたと笑ってた。
佐原は遊び歩いていた時とは違い、顔つきも精悍になり、少年という雰囲気が消えてずいぶんと落ち着いた表情を見せることが多くなった気がする。
「なんで急にバイトを始めたの?」
相変わらず学校では友達に囲まれているけど、それでも前よりは明らかに数は減った。
きっと付き合いが悪くなってしまった佐原から離れていった人がいるからだと思う。
「んー。いつまでもフラフラしてられないと思ったのと、あと欲しいものがあるから」
「なに?」
「内緒」
無邪気な笑顔を浮かべた佐原は、私の手を握った。
会うことが多くなって、遊びにいくことが増えた今ではこうして外で手を繋ぐことは珍しくない。
『あのふたりは付き合いはじめた』なんて、学校で噂されてるけれど、佐原はとくに否定しない。私も佐原と手を繋いで歩くことに違和感はないし、佐原の隣にいると心が安心する。