100日間、あふれるほどの「好き」を教えてくれたきみへ



岸美波と岸海月。同じ家に住み、一応血縁関係はあるけれど、クラスメイトたちはその事実を知らない。


『私たちは他人だから。同じ家に住んでるなんて誰かに喋ったら絶対に許さないからね』


そう美波に忠告されたのは、高校に入学する春のこと。

その言い付けどおり、私たちはあくまで同じ名字というだけの関係を学校では演じている。


私が彼女と形だけの家族になったのは、今から六年前のこと。



当時10歳だった私は自分の着替えの入ったリュックとお気に入りだったウサギのぬいぐるみを握りしめて、母の妹である晴江さんの家の前に立っていた。あれは、ざあざあと降りしきる雨の日。


インターホンを押して対応してくれた晴江さんに私は挨拶もしないで、ただ母から預かった手紙を渡した。



〝この子をよろしくお願いします〟

母からの手紙は、たったの一行だった。



母は未婚で私を産んだ。

父親は誰だか知らないし、もしかしたら母も分かっていないかもしれない。そのぐらい、だらしがない人だった。


つねに母の横には男の人がいて、それは顔を覚える時間もないぐらいコロコロと変わった。

母は私のことがきっと邪魔だった。


子供がいなければと私を足かせのように思っていたことは幼いながらに気づいていて、戸籍上では親子だけど私は一度も母から愛情を感じたことはなかった。


< 6 / 264 >

この作品をシェア

pagetop