100日間、あふれるほどの「好き」を教えてくれたきみへ
『これを持って晴江おばさんのところに行きなさい』
あの日、唐突に渡されたのはすでに用意されていたリュックとバス代と、細長い便箋に入れられた白い手紙だけ。
私のことを捨てた母が今現在どこにいるのか、それは誰も知らない。生きているのかも、分からない。
でも、はっきり言って私はあまり興味がない。
いつもイライラしていた人としか認識がなくて、母親だと思ったことは一度もなかったから。
「ねえ、美波。今日三年の先輩に美波の連絡先知りたいって言われたよ。本当にモテすぎ。これで何人目よ?」
ホームルームが終わった教室はまた一気にうるさくなった。自分から席を立たなくても美波の周りには人が集まってくる。
「えー数えてないよ」
美波はモテる。というか、モテるために自分を可愛く見せる方法を分かってると言ったほうが正しい。
家でもつねにスマホを手放さないし、メッセージアプリの通知もひっきりなしに届く。
スマホを目覚まし時計としか思ってない私とは大違い。
「ねえ、岸さん。こっち見てるよ」
美波を取り巻いている女子に見つかってしまい、私は慌てて視線を逸らす。
「美波と友達になりたいんじゃない?」
「同じ名字だから親近感湧いてたりして?」
「はは、超勘違い。ってか、美波と同じ名字とか運がないよね。地味な佐藤さんと一緒だったら比較されることもないのに」
ああ、鬱陶しい。
担任は事情を知ってるはずなのに、なんで同じクラスに振り分けるんだろう。普通、身内は別々にするもんなんじゃないの?
それとも親に捨てられて、いとこの家に居候してる私が可哀想とでも思ったのだろうか。