100日間、あふれるほどの「好き」を教えてくれたきみへ
それからしばらく歩き、ふたつの分かれ道に差し掛かったところで「ここまででいい」と海月が足を止めた。
「いや、外灯少ないし家まで送るよ」
「平気。じゃあね」
海月は俺の心配なんて関係なしにスタスタと歩きだす。
もしかしたら家を知られるのが嫌なのかもしれないし、本当に目と鼻の先に自宅があり、ここまででいいと言ったのかもしれないし、それは俺があれこれ考えていても分からない。
「……海月!」
静かな住宅街で響く自分の声。
「なに?」
海月が冷静に振り向く。
「もしなにかあったら……。寂しいとか苦しいとか具合悪いとか腹減ったとかなんでもいいから、なにかあったらすぐに連絡して!」
「………」
「他のことは無視していいから、また俺がバカなこと言ってるなって流していいから、これだけは約束してよ」
俺は言葉を知らないからどれほど言いたいことが伝わっているかは分からない。でも、海月が頼りたい時に頼ってもいい人がいるということ。
それだけは忘れないでほしい。
「ありがとう」
海月はやっぱり約束はしなかったけど、ありがとうと言った顔があの日と同じで。
なにかしたいのになにもできずに遠ざかっていく彼女の後ろ姿を、俺はいつまでも見つめていた。