100日間、あふれるほどの「好き」を教えてくれたきみへ
「もしかして、噂流したのってお前?」
「えー違うよ。塾の帰りに目撃したっていう三組の子でしょ」
岸のように鼻にかけて作ってる声の女子は信用しないって決めてるけど、まだそうだと断言することもできない。
「なんで佐原くんって最近、岸さんにちょっかい出すの?」
「は?」
「だって岸さんと佐原くんって全然合わないじゃん。私、岸さんと同じクラスだからどんな子か知ってるけど、物静かでひとりが好きっていうタイプだよ」
これでも一応、海月を目立たせないように気をつけていたつもりだったけど、俺の注意が足りなかったと今は反省してる。
でも聞き逃すことができない、最後のセリフ。
「それ本人が言ったの?」
「……え?」
「ひとりが好きなんて、あいつが言ってないなら勝手にそうだって決めつけるなよ」
海月がどんな性格なのか俺も知ってるわけじゃない。でも、あいつのことはあいつに聞くし、人から憶測で語ってほしくない。
とくに、海月のことだけは。
「バカみたい、ムキになっちゃって」
岸は不機嫌そうに声を低くして、俺の横を通りすぎた。
……あれ?
ふわりと風に乗って香ったのは、柔軟剤とシャンプーが混ざり合ったような柑橘系の匂い。
それは、俺が勝手に海月の匂いだと思ってるものと同じだった。
偶然?それとも……。
〝佐原がすごく暖かい場所で育ったんだって、家の中の雰囲気を見て思った〟
何故かふと、その言葉を言った海月の切ない瞳を思い出していた。