略奪"純"愛 『泣かすなら俺がもらう』
「そりゃ、やつれもしますよ。
残業代なしで、2ヶ月連続で200時間近い
残業ですよ。
俺の元気の素は、いないし。」

「元気の素?」

宮本さんは人混みをかき分けて、スタスタと歩いて来る。

「結、会いたかった。」

呆然と立ち尽くす結を、宮本さんは思いっきり抱きしめた。

そこにいる全員が驚いて、一瞬の静寂が訪れる。

俺は机の下で拳を握りしめていた。
手のひらに爪の跡が残るほど。

今、この場で、この人を殴り倒して結を奪えたら、どんなにいいだろう。

だけど、そんな事して、結が幸せになる訳じゃない。

我に返った結が、

「海翔!! ここ、会社!!」

と叫んだが、

「大丈夫。俺、今、就業時間外。」

と答えて、一向に手を緩めない。

周りも息を吹き返して、

「すっげー、宮本、こんな奴だった?」

「やってられねーな。」

「王子は何をやっても様になっていいねぇ。」

などと囃し立てる。

よくない。

やめろよ。

その腕の中にいるのは、俺の結だ。

結の心は俺のものなんだ。
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