略奪"純"愛 『泣かすなら俺がもらう』
伊藤は、おしぼりで溢れそうな涙を押さえていた。

泣かせるつもりなんてなかったのに。

俺はそれ以上、何も言えずに、届いた料理を無言で食べた。

伊藤も何も言わなかった。

伊藤は食べ終わると、黙って千円札を置いて、立ち上がった。

「いいよ。奢るって言っただろ?」

俺はそう言ったが、伊藤は振り返る事なく店を出て行った。


俺は支払いを済ませて会社に戻ったが、先に出たはずの伊藤の姿は、そこにはなかった。

トイレにでも寄ってるのか?

俺は、伊藤の席の1番上の引き出しを開けると、伊藤が置いていった千円札を入れた。


仲直りするために食事に誘ったはずなのに…

俺と伊藤は、そんなに決定的に相性が悪いんだろうか。
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