Adagio
有紗は担当した中途採用者を一階の出口まで笑顔で送り届けて、詰めていた息を吐き出した。
話に何か抜けはなかっただろうか。また、明日もこの会社に行きたい、働きたい、と思ってくれただろうか。
有紗は採用者とのやり取りを振り返りながら、エレベーターに乗った。六階にある人事部入り口付近の自席に戻ると、デスクの中央に生成り色のボール紙で出来た、小さな家が置かれていた。
「……かわいい!」
頭の中の省察を遠くに飛ばして、有紗は甲高い声を上げた。
「あ、それね。坂巻エンタープライズから」
有紗の声に気が付いた宇美が、くすくす笑いながら椅子から腰を浮かせる。
メタルフレームの眼鏡が良く似合う知的な雰囲気の美人が、就任四年目の人事部長、宇美晶(ウミアキラ)である。有紗の後ろに回りこみ、椅子の背もたれに手を乗せた。
「律儀だよなあ。綿貫が事あるごとにお菓子あげるのに、いちいちお返しくれるもんねえ。ちなみにそれ、中身なに?」
話に何か抜けはなかっただろうか。また、明日もこの会社に行きたい、働きたい、と思ってくれただろうか。
有紗は採用者とのやり取りを振り返りながら、エレベーターに乗った。六階にある人事部入り口付近の自席に戻ると、デスクの中央に生成り色のボール紙で出来た、小さな家が置かれていた。
「……かわいい!」
頭の中の省察を遠くに飛ばして、有紗は甲高い声を上げた。
「あ、それね。坂巻エンタープライズから」
有紗の声に気が付いた宇美が、くすくす笑いながら椅子から腰を浮かせる。
メタルフレームの眼鏡が良く似合う知的な雰囲気の美人が、就任四年目の人事部長、宇美晶(ウミアキラ)である。有紗の後ろに回りこみ、椅子の背もたれに手を乗せた。
「律儀だよなあ。綿貫が事あるごとにお菓子あげるのに、いちいちお返しくれるもんねえ。ちなみにそれ、中身なに?」