かんしゃ の きもち

「大丈夫、踏まないよ」

 優しく諭すように声をかけると、どろりと漆黒が動く。

「それにしてもさ」

 足元には地雷原のように墨文字が書き散らかされていて、俺は一条の光を頼りに、そこへと慎重に踏み込む。

「いっぱい書いたね」

 かさり、こそり、と。
 墨をたっぷりと載せた半紙が、俺の歩みといっしょに動く。

「おつかれさま、チルさん」

 突然、剥き出しの衝動をぶつけるように俺の体に漆黒が纏わるから、当然とばかりに腕の中の、墨の香を匂わした彼女を力いっぱい抱きしめる。

< 3 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop