かんしゃ の きもち
「大丈夫、踏まないよ」
優しく諭すように声をかけると、どろりと漆黒が動く。
「それにしてもさ」
足元には地雷原のように墨文字が書き散らかされていて、俺は一条の光を頼りに、そこへと慎重に踏み込む。
「いっぱい書いたね」
かさり、こそり、と。
墨をたっぷりと載せた半紙が、俺の歩みといっしょに動く。
「おつかれさま、チルさん」
突然、剥き出しの衝動をぶつけるように俺の体に漆黒が纏わるから、当然とばかりに腕の中の、墨の香を匂わした彼女を力いっぱい抱きしめる。