かんしゃ の きもち

「……チルさん、墨汁のにおいがする」

 ゆるりと彼女が腕の中から顔を上げる。気だるげな目元、僅かに開いたままの唇。正に、俺の知ってる、チルさん。

 いや違う。俺の、欲しい、チルさんだ。

「……まずいな、たまらない」

 ぎゅっと、更に力を込めて抱きしめたら。

「……めがね」

 くぐもった声が聞こえた。
 ……眼鏡?

「え……、あぁ」

 しまった。コイツを取るの、すっかり忘れてた。

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