かんしゃ の きもち

 起き上がったままのテンプルの先端、くいっと曲がったモダンと呼ばれる個所で、彼女の唇の輪郭をそっとなぞる。

 暗がりの室内に声にならない声が、確かに響いた。

 そのままモダンを、口元から顎、首筋をなぞって、喉元に突きつける。苦しそうな切なそうな顔で、彼女がこちらを見上げている。

 苦しそう? いや、違う。これはむしろ、期待、だ。

「ごめんね。なんだろうな、今日は少しだけ意地悪したい気分」

 そう嘯きながら、だらしなく開いたブラウスから覗いた、柔らかな双丘の谷間に立てたままのテンプルをぐいと差し込む。
 マッド仕上げの太めなステンレステンプルが、まるで彼女の心臓に突き立てたナイフみたいに見えた。

 ああ、だめだ。やっぱり気持ちが乱れる。
 この瞬間の、この『散ル』という女を作り上げたのがアイツ、狭山峯隆という鬼才という事実に。

 だけど。

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