極上御曹司の愛妻に永久指名されました
人間が怖いのか、俺の姿を見ると怯えた。
多分、人間に酷いことをされたのだろう。
仕方なく姿を消せば、その仔犬は周囲の気配を警戒しながらミルクを少しずつ飲んだ。
それが一週間続いただろうか。
だが、ある日その犬が飲んだミルクを吐いて倒れていて、病院にすぐに連れて行った。
軽い感染症にかかっていて、薬を処方されると、寝ずに看病した。
『早くよくなれ』と何度声をかけただろう。
眠くて少しうとうとしていたら、その仔犬がペロペロ俺の手を舐めて……。
その時、初めてそいつと気持ちが通じ合った気がした。
それからは俺の手から餌を食べるようになって、結局『アイ』と名付けてうちで飼うことにした。
名前の由来は、その綺麗な瞳から。
藍色のあいでもあるし、英語のEYEの意味でもある。
アイは家に帰ると玄関で座って待っていて、俺の顔を見ると足に擦り寄って来た。他の家族には懐かなかったけど、俺だけには心を許していたのが嬉しかった。
俺が高校三年の時にアイは死んでしまったけど、それまで俺の大事な家族だった。
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