元カノと復縁する方法
3.遅れた自覚
ぼんやりと電車に揺られながら、颯は思い出していた。

旭と付き合った日のこと。いや、正確には付き合う前日のこと。

旭は仕事に対して一生懸命な姿勢は今と変わらないが、以前から今のように仕事を捌けていた訳ではない。

連絡漏れがあったり、誤ったレイアウト依頼を出してしまい一緒にクライアントに謝罪に行くことになったり、涙ぐんで席を外した姿も見たことがある。
でも、諦めずに食らいついてくる姿に、一緒に仕事をしているメンバーは誰も文句を言わなかった。何も言わなくても、自分と戦っている奴だと思ったから。
榛名さんに甘すぎる、チヤホヤされている、と他部署の女性に言われたこともあるが、颯がそう思ったことはなかった。

あの日。

だいぶミスも減ってきた頃、チームだけではなく営業部全体の飲み会があった日だった。どちらかと言うと人見知りの旭は、いつもは座らない俺の横に座って、いつも通りビールを煽っていた。普段からお互いに穏やかな笑顔を見せながら、「猫かぶり」「腹黒」と潜めた声で言い合うこともあった俺達が、酒が入った状態で近くに座ることは滅多に無かった。
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