元カノと復縁する方法
午後の時間があっという間に過ぎていく。桐山が戻ってきたことで、営業2人分は業務が追加されたように感じる。
頭から溢れかえりそうで、旭は少しクールダウンしようと、隙を見て給湯室にやってきた。

自販機の前に立つが、まさかのブラックコーヒーが売り切れだ。どうしようかな、と悩んでいると、外出先から戻ったのか、そこに颯が入ってきた。

先にいたのが旭と認識し、ぴた、と一瞬動きが止まったように見えた。

「お疲れ」
「お疲れ様」

声を掛け合い、少し間が開く。

別れて以来、二人きりの空間は初めてだ。意図的にそうならないようにしていたのもあるが、少し、緊張する。

別れてから、業務でのやり取り以外で、颯からプライベートな連絡は来ていない。旭も、メッセージの画面を開くことはあったが、結局、連絡出来なかった。

本当は、少しだけ期待していた。寂しいとか、大事さが分かった、みたいな。でも、残念ながら一言もそんな連絡は無い。そんなものか、と諦めに似た気持ちがあった。

「コーヒー、お前も飲む?」

何気ない提案に、反射的に「ありがと、お願い」と返した。
コポコポ、とコーヒーメーカーの音がしんとした部屋に響く。桐山さん戻られてるよ、あぁ、さっき会った、と何気ないやり取りをして、また無言になった。一緒に暮らしていて、もう長く無言が気まずいなんて忘れていた。

「お前、元気なの?」

ぼそっと聞かれた言葉にドキリとする。

「毎日会ってるじゃない。」

まぁ、そうだけど。
そう言って鋭くこちらを見る目に射抜かれそうだ。
その目に熱を感じてしまうのは、私の願望だろうか。

「颯は」

「元気じゃないの?」

引き出されるようにそう言うと、その目が更に鋭くなった気がした。

「どう思う?」

一歩、颯がこちらに近付く。
反射的に、一歩下がる。
更にもう一歩近付く。
狭い給湯室ではそれ以上後ろに下がれず、颯を見上げる形になる。

「どうって・・」

「元気でいられると、思うか?」

切なそうにも見える表情に鼓動が速まる。
それは、どういうこと?期待しそうになる心を冷静なもう一人の自分が留める。続かない言葉に無言で見つめ合い、旭が口を開こうとした時。

コン、コン

開きっぱなしのドアをノックして、桐山が立っていた。

「俺も、コーヒー、貰おうかな。」
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