元カノと復縁する方法
「別れたんだってね」

どき、と心臓が跳ねる。桐山の横顔を盗み見るが、穏やかないつもの顔で前を向いている。

「聞こえてたんですね。」

食堂で。

恥ずかしくなり、少し俯いた。

「まぁ、それもあるけど、」

「瀬戸口は、君の事になると顔に出るからね。」

その言葉に顔を上げた私と、バックミラーの中の目が合う。
はっとなりまた目を逸らす。これでは肯定しているようなものだ。

ふ、とおかしそうに笑う桐山は、いつもの彼と、どこか違う。

「なんか・・今日の桐山さん、意地悪ですね。」

「そう?」

それでも、前を向き運転する横顔は、いつも通り涼しい 。
沈黙に、そわ、と落ち着かない。
そのまま、桐山は何も言うことなく、車を走らせた。

旭のマンションの前には小さな公園がある。彼はその公園に寄せて車をとめ、ハザードをたいた。

「ありがとうございました。」

そう言ってシートベルトを外すが、桐山は前を向いたまま、反応しない。

「・・桐山さん?」

「寂しいなら」

こちらを振り向く。
その瞳の鋭さに、強烈に、彼が男の人であることを意識した。

「寂しいなら、いくらでも甘やかしてあげるよ」

いつでも、おいで。

は、と息を吐く。
自分が狩りの獲物になったような錯覚に陥る。目を逸らせずにいると、ブー、ブー、とバイブ音が鳴った。私の携帯。

音の元が私の鞄であることを目で確認し、いつもの穏やかさのない、色気のある笑みで言う。

「あいつは本当にタイミングがいいね。」

お疲れ様、おやすみ。
ガチャリ、と解除されたドアに金縛りが解けたようになった。

「ありがとうございました」

もう一度早口で御礼を言い、急いで頭を下げて外に飛び出す。
車が発進するのを待ちきれないかのように、通話ボタンを押した。

颯の優しい声が、聞きたかった。
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