モーニング・ステーション
出発の朝
アラームが鳴った時間はまだ真っ暗だった。
5:10
暗闇の中、
今夜自分がいる場所を想像すると胸の奥の方からひたひたとワクワクが近づいてくる。
期待と興奮からか、
感じるはずの眠気もどこかへなりを潜めた。
ベットから体を起こして後ろを振り向くと、
今日のために買った白いキャリーケースが飛び出しそうな荷物を乗せてヒラメのように床に這いつくばっている。
遂に今日が来た!
スマホで時間を確認しながら立ち上がってキャリーケースをバタンと閉める。
荷物を入れすぎたらかチャックが中々閉まらない。丁寧にチャックの位置を確認し直して、
飛び出したビキニの紐をもう一度入れ直す。
今度は左膝で体重をかけて力一杯チャックを閉めた。ギュインという音と小さな達成感。
5:20
新聞配達のバイクが外を走っている音がした。
昨夜用意した服に着替える。
鏡の前で確認して相変わらずの寝癖にため息、
時計を気にする。
5:30
メイクの時間を削ることになっちゃうなー。
なんでこんなに寝癖ひどいのよ。
さっき寝る前にドライヤーちゃんとかけたのに。
なんて心の中でボヤきながらも、
洗面所に移動して髪を濡らす。
ドライヤーのスイッチを入れると、想像以上の音量にフワフワし始めていた脳がびっくりしちゃう。
この時間に聴くとうるさく感じる。
和室で寝てるママとパパが起きなかったらいいけど。
5:50
寝癖が予想よりもしつこくて何度もやり直しているうちに遅くなってしまった。
鏡の前で必要最小限のメイクを終わらせて、
機内持ち込み用の化粧水をカバンに入れる。
5:55
みんなが寝ている和室の横をなるべく音を立てないように通り過ぎて台所で水を飲む。
朝ごはんは…もう諦めるしかないよね。
時計を見てから冷蔵庫を開けると昨日のカレーの残りが入っていた。
しばらく食べないママのご飯がカレーってね。
ちょっとだけ可笑しくて一人で笑った。
そんなことしてる場合じゃなかった。
カレーの隣にあった一口かまぼこを勢いよく取って、バタンと冷蔵庫を閉めた。
5:57
自分の部屋にもどって、
キャリーケースの持ち手を掴んで起き上がらせる。
自分の部屋の出口までたどり着いて
もう一度部屋を確認する。
うん。忘れ物ないよね。
玄関まで行って、履き慣れたスニーカーを履く。
出発を噛みしめるように丁寧に靴紐を結んだ。
そして、手に持っていたパスポートを首にかけ、
キャリーケースの持ち手をカタカタカタ!と勢いよく伸ばす。
6:00
昇り出した朝日の中、
玄関の重いドアを開いて2週間のまだ見ぬ冒険に足を踏み出した。