この声が聞こえるまで
「来年またこの桜の下で。」

どこか、その声は懐かしくも儚く今にも消えてしまいそうだった。

「待っ…」

離れゆく背中を追いかけるかのように手を伸ばすが届くことはなく現実へと引き戻された。

「結、いつまで寝てるの?学校に遅刻するわよ。」

部屋の外からは朝食の良い香りと共に母の声が聞こえてくる。

「今起きたから大丈夫だよ。」

ベッドから降り目の前にある鏡を見ると一筋の涙が頬を伝っていた。

あの夢を見るようになってから毎朝起きると何故か涙が出ている。

何が悲しいのかこの感情が何なのかは分からない。

ただ私は何か大切なことを忘れているような気がする。

忘れては行けない何かを…。
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