この声が聞こえるまで
差し伸べられた彼の手をとり最後に一度だけ振り返る。

「吏人、兄さんの事をお願いね。」

この時代には兄が居れば十分だ。

私が消えたところで神隠しにあったとでも言って存在自体知らず知らずのうちに消えるだろう。

「…っ」

返事は返ってこない。

吏人は必ず約束は守ってくれる。

だから私も安心して…いや、スッキリとした気持ちと言う表現の方が正しいだろうか。

なんの迷いも未練もなく此方の時代を立ち去れる。

「お別れはもういいのかい?」

「ええ。元々私には、お別れを告げないといけないような人はいないもの。」
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