ハル色に染まるるを…
ーーー4月下旬 某日午後。
今日は、僕にラッキーな事が起きた。
本間先生と、二人でクライアントへの
挨拶に行くことになったのだ。
彼のいる高梨機工っていうのは
少し気にさわるけど。
到着してすぐ慣れている事を示したくて、
いつもより少し早めに歩を進める。
後ろを小走りで着いてくる
本間さんを可愛く思った。
「おーい!ユウト!」
突然下の名前を呼ばれ
思わずビクッとして上を見る。
僕をそう呼ぶ人物は多くない。
見上げると機械の上から、人影が降りてきた。
「ふぁ〜、よく寝た。」
上から現れた意外な人物の正体に驚く。
「え、マツ!?寝てたんですか?」
完璧男 松田璃走だったから。
伸びをしながら近づくマツは
欠伸をしていても格好いい。
男の僕でも、そう思うのだから
本間さんだってそう思うだろう。
だがこの男。仕事中に…寝ていた。
「うん、今朝海外出張から帰ってきてさ。
時差ボケで眠くて眠くて。いま手待ちだから仮眠よ。
ユウトは挨拶まわり?」
相変わらず、フランクな話しぶり。
少し羨ましく思っていると
本間さんが遠慮がちに聞いてきた。
「お知り合いなんですか?」
僕が答えようとしたのに
この男に先を越されてしまった。
「すみません、不躾なもんで。
僕ら高校の同級生でしてね。」
色んな女子を落としてきたであろう
笑顔を、本間さんに向ける。
勝てないなと、思い
自分を納得させるかのごとく
無意味に何度も頷いて、ようやく口を開いた。