君と過ごした冬を、鮮明に憶えていた。
悪寒しかなかった。
 話の内容に、ではなく、”冬”と呼ぶ母さんそのものに。
 自分が聞いたくせに、その答えを頭に入れないとは何事だ。...いや、頭に”入らなかった”んだろう。もっとも、そうさせた悪寒の理由自体分からない為、この先を考えるのは困難だと言えよう。
「さ、早く入りましょう」
 様子に気付いていないのか、中に入ろうと急かす母さん。
「...うん」
 今回もまた、悪寒の理由は定かにはならず、今頃になって父さんのことが頭をよぎった。直後、少しでもあんな男を気にした自分を否定するが為、首を横に力強く振る。

 ホテルの内装は、一言で纏めてしまうと『贅沢』だった。
 京都の金閣寺の外観は、金箔が見られる。そのホテルの内装は、見た瞬間に金閣寺を連想させるものだった。
 金箔が贅沢に使われていたのだ。
 私も母さんも、思わず舌を巻いた。
 そこで母さんがポツリと呟く。
「...お金、どうしよう」
 その言葉で、あることを思い出した。”みずしょうばい”と聞いたことがある。確か、それは給料が高かったのではと思い、母さんに提案した。
「母さん、”みずしょうばい”したら」
 そう言ったら、母さんは私を凝視した。
「ちょっと!どこでそんな言葉覚えてきたの!」
 両肩をがしっと持って、今までにないくらいに驚いた、というような母さんは、顔から火が出ている。
 察した。きっとこれは、まだ私が知らなくていいことなんだと。
「......、ごめん」
 察した途端、何故か顔が青ざめた。
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