君と過ごした冬を、鮮明に憶えていた。
返答に困っていると、微笑んでいた矢川がその笑顔のまま、付け足す。
「返事、別に今じゃなくていいっすよ」
 と、私の頭を撫でた。彼は私よりも背が高い。なので彼を見上げる形になっている。
「それじゃあ」
 狼狽えていると、いつの間にか彼はその場を去って行った。
 私は、途方もない呆気を自身の中に留めていた。
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