君と過ごした冬を、鮮明に憶えていた。
そこで___
「......あ、れ...?」
 母さんの目には、涙があった。
「これ...飲んだこと、あ.........」
 言いかけて、大きな瞳を更に大きくし、声を発す。
「............門海、さん......?」
 その声は、安堵と言うのに相応しいだろう。名を呼んだ後、男は有り得ないくらい優しく微笑み、母さんの頭を撫でた。
 当時12だった私でも、その意味ははっきりと分かった。
 だから
 -カラン
 外へ、出た。
 私が居ていい空間じゃなくて、『2人だけの』空間だったから。私はそれをわかっていた。
 外は、相変わらず寒かった。冷たい風が黒い短髪を揺らす。
 ...これは、多分寒さのせいであると思うけれど、
「......っく...う.........」
 私は、泣いていた。
 ただ、泣いていた。
 寒さのせいであるという言い訳が、嘘だとわかってしまうくらいに。
 ひっそりと、それでも強く、泣いた。体中の水分が絞り出されるみたいに。
 そこまで泣いても、涙の理由を明確にはできなかった。それが、悔しかった。私は、私のことがわからない私が、憎ましかった。
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