お酒はハタチになってから
いつもとは違うグラスを両手で包み込むように握っている。
グラスの中には、開けたばかりの珍しいお酒。
テーブルには肉じゃがや卵焼きなど、私の好きな物が所狭しと並んでいる。
視線は上げられないまま、繊細な切子のグラスに注がれた液体をじっと見つめた。
息の詰まるような沈黙。
目の前に座る彼は、ただ何も言わずに私の言葉を待っている。

「…好き」

自然に口から零れた言葉は、すぅっと自分の心にも染み渡るように広がる。
少しだけ頬が熱かったが、そこまで酔ってはいなかった。

「そうか…」

彼は少し安心したように表情を緩めて、焼き鳥の串を皿に置いた。

少し騒がしくなってきた店内にあって、妙に品のある仕草だった。



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